【感想】海外ドラマ『ブラック・ミラー シーズン2-3「時のクマ、ウォルドー」』中身がなくともインパクトさえあれば喝采され、人気が得られる
いろいろ方法はあると思うのですが、一番正攻法なのは「情報」を発信することだと思います。その情報を欲する人が多ければ多いほどフォロワーは増えます。
相互フォローをとにかくする、などの方法もありますね。
他の方法としては過激な発言をし耳目を集める方法もあります。炎上を狙った方法です。
過激な発言の発端となる対象が、世間的に見て「文句を言いたい」と思うような存在ならば――例えば政治家――、過激な発言をしたその人は人気となるでしょう。思うところはあるけれど、はっきりと言えない存在に対して、はっきりと言葉を発する人には多くの喝采があがります。
その言葉がたとえ空虚で中身が無くとも、「文句を言いたい」対象を批判したという行為自体に喝采が上がります。人々が内心で言いたいことを、はっきりと口に出して言ってくれる存在はあまりいないからです。
その言葉の中身のなさに気づき離れていく人も多いでしょうが、それ以上について来る人が多いときもあります。
ついてくる多数の人によって作られた人気を利用し、過激な発言をしたその人が、過激な発言をされる対象(権力を持つもの)となる、そんなことも可能かもしれません。
すべてを計算し、自分を支えてくれていた人を踏みにじるような存在になることも。
「イギリスの2大政党である保守党と労働党の選挙戦が続く中、アニメキャラクターのウォルドーを出馬させようとテレビ業界の幹部が言い出し…。」
ネットフリックス作品エピソードから、『ブラック・ミラー シーズン2-3「時のクマ、ウォルドー」』のあらすじを引用しました。
本編の内容に踏み込んだ文章を書いています。ぜひ先に『ブラック・ミラー シーズン2-3「時のクマ、ウォルドー」』を鑑賞してください。その上で再び、ブログを見に戻ってきていただいたら非常に嬉しいです。
「ブラック・ミラー」の他エピソードの感想記事に興味がある方はこちらをクリック。
「ブラック・ミラー シーズン1~2」を見て、自分の中のベスト3を選びました。『「ブラックミラー」で オススメは何?』という方はこちらをご覧ください。『「ブラック・ミラー シーズン1~2」マイベスト3』を読む方は、こちらをクリック。
目次
『ブラック・ミラー シーズン2-3「時のクマ、ウォルドー」』
中身がなくともインパクトさえあれば喝采され、人気が得られる
ブログのタイトルはわたしが物語のテーマと考えるものです。
なぜそういう風に考えるかに至ったかを3項目にわけ、物語の展開から解説しています。
最後にこの物語から考えたことをまとめています。
汚い言葉でアニメキャラは人気を得ていく
政治家をバカにしたら話題になる
「ウォルドー」は青い熊のアニメキャラクター。声と、動きの操作をこの物語の主人公の男性ジェイミーがおこなっています。
「ウォルドー」はワイドショー的な番組で、有名人と対談します。その対談手法は、徹底的に相手を揶揄し、笑いをとるスタイル。
ゲストは補欠選挙に出る予定の議員リアム・モンロー(この時点ではまだ決まっていません)。放送後、その議員から苦情が来ますが、放送局の人は「話題になる」と発言します。
娯楽は多様化しています。放送局も人気取りに必死であり、人を揶揄し注目を集めるというあまり品のよくない手法であっても、人気さえ取れればいいと思っている人もいるようです。
今まで、番組のいちコーナーに出ていた「ウォルドー」でしたが、その人気によりひとつの番組となります。
番組で行うことは、補欠選挙に出る予定のリアム・モンローの邪魔をすること。そして、アニメキャラの「ウォルドー」として選挙に出ること。
発展性もないが、その発言のインパクトゆえにますます人気が出てしまう
「ウォルドー」を演じているジェイミーは「ウォルドー」として政治の話をすることを嫌がります。
自分が政治の話ができないことがわかっているからです。いずれ恥をかくだろうことを恐れています。
恥をかくことを恐れるだけなら「勉強して、仕事を全うしなさい」と思うのですが、もともとジェイミーは人気が出てしまった「ウォルドー」にプレッシャーを感じていたようです。劇中では直接語られませんが、自身は「ウォルドー」のように人を揶揄するようなタイプではないのかもしれません。
そう考えると同情を感じてしまいます。
番組で「ウォルドー」はモンローの選挙活動の邪魔をします。
ジェイミーは「ウォルドー」としてモンローやほかの選挙立候補者との、学生主催の討論番組に出演することを伝えられます。ジェイミーは嫌がりますが、参加することになります。
政治的な発言ができないというジェイミーに対して、プロデューサーからは、「誰も求めていない。笑いを提供すればいいと」言われます。
苦悩しているようなジェイミーが映し出されます。自分の存在価値について考えるところがあるのでしょう。
討論番組ではモンローが「ウォルドー」ではなく、「ウォルドー」を演じているジェイミーに対して口撃します。ジェイミーの過去をもとに、ジェイミーを上品に揶揄し返すのです。その言葉は「彼には何の提案もなく主張もない」というジェイミー自身も思っていた本質をついたものでした。
ジェイミーは「ウォルドー」を通して、怒りと苛立ちと興奮が入り混じった言葉で、そこにいる議員候補(主にモンローと、モンローの第一対立候補に対して。モンローの第一対立候補のハリスは女性で、ジェイミーと関わりを持ってます)を口撃し始めます。「政治家ってなんだ、俺より嘘っぽいな」このような言葉が討論を見ている人々の喝采を得ます。そして、ジェイミーは、「ウォルドー」の操作をやめ逃げるように去っていきます。
ジェイミーが興奮のままに言った言葉は、有権者の思いと一致していたのでしょうし、溜飲を下げる人も多かったのでしょう。この放送はユーチューブで絶大な人気を得ます。
誰もが「政治家ってなんだ、俺より嘘っぽいな」という言葉ようなことを考えていると思いますが、「嘘っぽくない、政治家を作るにはどうすればいいか」という提案がなければ、議論になりようもなく、発展性もありません。
なにも、対案出さない言葉に意味がないと思っているわけではありません。ただ、言いっぱなしの言葉だけでは人は変えられないと思います。
もし「ウォルドー」が政治家として、世の中を良くしたいと思っているという前提ならばですが。
しかし、現実は「政治家ってなんだ、俺より嘘っぽいな」という一連の言葉から「ウォルドー」の人気が出てしまいます。誰もが思っているけど、どうせ届かないと思って誰も言わない言葉だったのでしょう。
「ウォルドー」の番組を作っている制作会社? の社長はさらに「ウォルドー」の人気を上げようと、また政治の話をする番組に「ウォルドー」を出演させようとします。
もう政治の話をしなくないジェイミーは、その番組に出ることを拒否します。しかし、社長が「ウォルドー」役で出演しようとすると、「ウォルドー」は自分の分身であると思っているのか、結局ジェイミーは「ウォルドー」を演じ、番組に出演します。
「ウォルドー」の人気は世界的になった
「ウォルドー」の人気に目をつけたのか、CIAが接触してきます。世界進出の筋道を示します。
「ウォルドー」という存在のせいで、モンローの対立候補であるハリスの応援に党首が来なくなります。
それを知ったためか、ジェイミーは直接ハリスに討論会での発言などを謝りに行くのですが、「あなたは何なの」と言われます。
ハリスの発言によって、自分の中身のなさ、中身のない発言を「ウォルドー」として続けることに嫌気がさしたのか、「ウォルドー」の映像を側面に写したトラックに乗っていたジェイミーは「自分に投票するな」と「ウォルドー」として叫びます。
トラックから出てディスプレイを壊そうともします。
ジェイミーは「ウォルドー」を見ていた観衆に殴られ、病院へ。
病院で、その後他の人が演じていた「ウォルドー」が、選挙の結果二番目の得票数を得たことを知ります。「ウォルドー」はひとつも中身のある発言していないのに、二位となってしまったのです。
物語の最後でホームレスになってしまったジェイミーと、世界進出している「ウォルドー」が映されます。子供の前で語る「ウォルドー」。「信じる」「未来」という言葉とともに映し出される「ウォルドー」。きっとこの「ウォルドー」は以前のように暴言を吐いていないことが想像されます。
ジェイミーがそのまま「ウォルドー」を続けていれば、ジェイミーは莫大なお金を得ていたかもしれません。「ウォルドー」として人を揶揄するのようなことをしなくて、よくなったかもしれません。一時の感情を抑えれば、ジェイミーがホームレスになることはなかったかもしれません。
しかし「ウォルドー」が世界進出するまで(もしかしたらCIAのシナリオに沿って)、ジェイミーが耐えられないようなことを演じなければならなかったかもしれません。その過程の中で、精神を壊していたかもしれません。
映像はジェイミーが落ちぶれた姿を示し、「ウォルドー」の躍進との対比で皮肉を感じさせます。しかし、ジェイミーにとって「ウォルドー」を続けなかったという点においては、良かった可能性もあります(劇中では、本人は悔しがっているようですが)。
「ウォルドー」は世界に進出しました。中身のない言葉を武器に。それは皮肉です。
強い言葉で人の心は魅了できる
例え、その言葉に発展性がなくとも、多くの人が不満に思っていることを口に出していくことで現実世界で人気が出ることは可能でしょうか?
わたしは可能だと思います。人の心理のあやをくすぐるような言葉を計画的に細心の注意を払い、発していけば(「細心の注意を払う」そこが難しいところですが)。
可能と言いましたが、人気の出るところまでは計画ではなかなか難しいかもしれません。「ウォルドー」の人気ははジェイミーの心の叫びが生んだ奇跡とも考えられます。人気の発火点には、ある程度の情熱が必要とも思えます。しかし、一旦人気が出てしまえば、その後その人気をどのように上昇させていくかという計画は建てられると思います。
人気が出てしまえば、その人気が信用の証となり、ますます人気者の言葉は人の心に響くでしょう。そうなれば、強いインパクトのある言葉は少しずつ必要なくなります。
多分一番危険なのは、一番最初の頃でしょう。そこを乗り越え人気が出てしまえば、ほとんどの人が過去の発言など忘れてしまいます。
もちろん、今の時代過去を掘り起こされることもあリマス。なので、過去の過ちを認めることは大切です。
しかし、「過去の過ち」を認めるその行為もまた計画されたものの一部かもしれませんが。
「ブラック・ミラー」の他エピソードの感想記事に興味がある方はこちらをクリック。
「ブラック・ミラー シーズン1~2」マイベスト3に興味がある方はこちらをクリック。
Black Mirror – Series 1-2 and Special [DVD]
ブログの更新情報はこちらのツイッターアカウントから確認お願いします。